武者小路実篤『友情』

高校のときに『こころ』を読んで、なかなかエグい話だなぁと思った記憶があるのですが、これはそれよりさらにエグい気がします。エグい代わりに登場人物たちはさほど不幸にはならない。作中の表現としては、少なくとも。
表紙に「身につまされる思いで読み進んだ経験のある読者も多いだろう」とあるのだけれど、まさにその言葉はこの小説にはまったく正しい。ほれたのはれたのだのという心理描写を理解はすれど共感がしにくい自分としては、やはり主人公の野島の、いちいち外界からのちょっとした刺激で揺れ動きまくる心が一番の見所。一方では利己的な自分がいて、そして一方ではそのように考える自分は卑しいのではないかと戒める自分がいる。あるある。


個人的にキた場面。
病気で臥せっている野島。そこに恋焦がれる杉子が来て、野島を放っておいてみんなと楽しそうに談笑する。その無頓着に悲しみを覚えた翌日に、杉子から
『「昨日大宮さんと武子さんであなたのことずいぶんほめてらっしてよ」
「僕はほめられる資格はありません」
彼は本当にそう思った。そして大宮たちに謝罪したい気がした。』
なんだあんにゃろうめ、と思った即日それを裏返す事実。これ本当に死にたくなるなぁ。


これは最近読んだ中だと一番ヒットしたかもわからない。
俗っぽい眼で見ると、ヒロインの杉子よりは武子のほうが好き。良い感じだと思う。
「本当にあの方は綺麗な手をしていてよ」
「わからなくって?」
こういう言葉遣い大好き。やベー俗っぽい。