有島武郎『小さき者へ・生まれ出ずる悩み』

白樺派で攻めてみる試み。
小さき者へ。妻が逝ったあとにまだ小さい子供らに対して、その深い事情を語ってるもの。全体通して子供に語っているようではあるけど、結局自分の思い出やら妻との関係やらを再確認しているような文章。子供らに対する色々な言い訳が、気持ちの良いくらい自己正当化を目的としたこじつけになってたりするのがなんともユニーク。
子供らが朝、母の写真の前に行って「ママちゃん御機嫌よう」と快活に叫ぶ、という描写はなんとも卑怯。これにグッとこない人間は悪鬼のごとく扱われても何の文句も言えまい。グッと来ました。
生まれ出ずる悩み。漁師町生まれの青年の、芸術の道か生活のため漁師として一生を終えるかの苦悩を自然の描写とともに描く。実際にモチーフがいるらしくまるで現実にそういうことがあったかのように書いているが、センチメンタリズムばっちりの感覚が炸裂した有島の妄想にしか過ぎない、ということがおもしろい。その青年を通して自己投影をしているのかなーとか思ってたら、最後の解説にもおんなじように書いてあってちょっとうれしい。
いちいち描写が力強い感じがして、それを頭で映像化するのが大変だけど楽しい。気がする。